【くるみ】
「青い、薔薇……」

私の視線は一点に注がれたまま、
離すことができないでいた。

だって、そこにあったのは紛れもない青い薔薇。
『不可能』という花言葉を持つ、幻の花。

つい最近、青い薔薇が開発されたという
ニュースを知ったけど、もっと紫がかっていて、
こんなに鮮明な青じゃなかった。

どうして? いつの間に?

薔薇を前にぼんやりとたたずんでいると、
私の横にすっと影ができた。

【???】
「くるみ先輩、どうしたんですか?」

【くるみ】
「あ……焔君……」

それは一つ下の後輩、城崎焔君だった。

焔君は年の割りに大人っぽくて、背も高い。
女の子からも人気があるから、本当だったら、
私なんか一生話す機会なんてなさそうな人。

それなのに、数ヶ月前、なぜか突然話しかけられた。

『友達になりませんか』

……今考えると、変な人だよね。

【焔】
「先輩、雨はとっくにあがってますよ?」

【くるみ】
「えっ……あれ??」

周りを見回したら、傘をさしているのは
街中でただ一人、私だけ。

私が慌てて傘を閉じたら、
焔君はその横でクスクス笑っていた。

【焔】
「あ……青い薔薇を見てたんですね、珍しいなあ」

【くるみ】
「うん、びっくりしちゃった。
……青い薔薇っていつの間にか開発されてたのね」

【焔】
「ああ、残念ながらこれは、
人工的に色をつけたものですよ」

【くるみ】
「人工的に?」

【焔】
「白い薔薇に青い色素を吸わせるんです。
人工的とはいっても、輸入物だし、
結構いい値段がするんじゃないかな」

……なんだ、がっかり。

やっぱりまだ、
自然に咲くこんなに鮮やかな
青い薔薇は存在しないんだ。

【焔】
「ブルーローズの意味は『不可能』ですから、
ここまでの色を出すのは
まだ難しいんじゃないんですか」

【くるみ】
「残念……」

【焔】
「先輩、青い薔薇が好きなんですよね」

【くるみ】
「好きっていうか……憧れてるの」

【焔】
「憧れ?」

【くるみ】
「名前自体に不可能という意味を持たされた
花が咲いたら、それは奇跡でしょ?」

不可能でありながら、
すぐ手に届きそうな錯覚を起こさせる花。

信じていれば奇跡だっていつか起こると、
希望を持たせてくれる青い色。

数多の研究者達が鮮やかな青を求めて止まない
すぐ側にある幻。

【くるみ】
「この花が咲いたら、
私にも何か奇跡が起こるような気がするの」