たちこめていた花の香りを洗い流すように風が強く吹いた。

「教会の裏にこんな綺麗な薔薇園があるなんて知らなかったよ〜」

瀬名がため息を漏らすのも無理ないよ、私だってこんな綺麗な庭園は持っていなかったもん。

「ほら、これなんかどう?」

瀬名が白い薔薇を一輪摘み、私の髪に挿してくれた。

「うん、似合ってるよ! まるで君のために咲いた薔薇みたいだ」

琥珀色の瞳をきらきらさせて瀬名は私に微笑む。無邪気なひと。少し照れてありがとうと呟き、そのまま瀬名にキスをしようとした。とたんに、強く風が吹き、目にごみが入る。痛い。

「……大丈夫? ほら、こっちを向いて」

ぎゅっと目をつぶってごしごしとこすっていた私の顔を上げさせると、瀬名は私の目をそっと舐め、ごみを取り除いてくれた。瀬名の唇はそのまま私の頬をなで、耳たぶを甘く噛む。

「……ね? ここで、いいでしょ?」

子供が飴玉をねだるような問いかけに、私は微笑みながらうなずいた。

まぶた、鼻の頭、首筋。瀬名はいろん所にキスを落としてくれる。私は形だけの抵抗も見せずに、なすがままに瀬名を受け入れる。そのまま芝生に二人で寝転がった。視界に青い空が広がる。私はここが慣れ親しんだ魔界ではないことを強く思い知った。

「ふふ……よりによって教会でね……」

その言い方に胸がちくりと痛んだけど、瀬名に悪意があるはずがない。私は自分にそう言い聞かせた。

瀬名の両手が私の服の下でうごめく。

「しっ、黙って。誰か来たら困っちゃうよ」

無意識のうちに私は声をあげていたらしい。恥ずかしい。私はこくこくとうなずいた。

スカートがたくし上げられ、瀬名の指がそちらに向かう。そこはさっきからの愛撫でもう濡れていた。顔を上げてにこにことする瀬名を見て赤くなった。

「ずっと我慢してたんだ。えらいえらい」

馬鹿にされたように思えて反論しながら上半身を起こす。はずみで瀬名の指が深くめりこみ息が止まった。それを見た瀬名は嬉しそうに指を増やす。

「ここを薔薇色だっていう人もいるけど、たしかに薔薇色だね」

恥ずかしいことを言われて頬が熱くなった。
そんなこと口に出して言うことないのに。
私は怒る代わりに、瀬名の下腹部に指を伸ばした。

「うわっ、ちょっと、君……」

瀬名だってこんなに興奮しているくせにと軽くなじる。私はファスナーを下ろすと、瀬名のものを弄りはじめた。

「ん……君……こんなところで……」

感じている声が単純に嬉しい。瀬名が私に欲情しているなんて、それがとても嬉しい。

「ほんとに……悪戯大好きなんだから」

押し倒されて、髪から白薔薇が落ちた。そのまま挿入され、小さく悲鳴を上げた。

「そんな悪戯、できないようにしてあげるね」

何度も揺すられ、声が漏れる。ここが教会、つまり敵地であることがより一層気分を盛り上げる。もしかしたら見られているのかもしれないよ、そう思ったら頭の芯がじんとなった。

「ねえ、もっと……僕を求めて」

瀬名の動きが一層強まる。私は瀬名が与えてくれる快感に夢中になる。気がつくと私は押し倒された格好で必死に瀬名にしがみついていた。

瀬名と二人で絶頂を向かえ、焦点が定まらない目で見つめる私に、瀬名は笑いかけてくれた。

「ねえ、僕があげた薔薇、めちゃめちゃだね」

見ると、私が暴れたせいで白い薔薇は踏みしだかれたようにその残骸をさらしている。せっかく瀬名がくれたのに。少し泣きそうになる。

「いいよ、また摘めばいいから」

瀬名は笑って頬にキスをしてくれたけど、私は不安でしかたがなかった。

――ねえ瀬名、あなたは私をこの薔薇みたいに扱わないでいてくれる?

問いかけは言葉にならず、花の香りと一緒に強い風に吹き飛ばされていった。



END