苦しい。辛い。息が出来ない。 水の中で目を開くと、頭の上でエメラルドグリーンに光る二つの瞳が見える。 あれはセイジュのもの。私を甘く汚していくセイジュの瞳だ。 その刺すような光に息だけじゃなく胸が苦しくなって、私はバスタブの中から顔を出した。息が荒い。 「あれ、もう降参? こんなんじゃ君の大好きなあれはあげられないよ」 私はセイジュにねだるような目をしながらいやいやをした。こんなに昂ぶらせておいてそのまま放りだされるなんて我慢できないよ。 「僕は別にこのままお風呂から上がってもいいんだよ? 君のほうが浅ましく欲しがってるだけなんだから」 セイジュはずるい。ずるいじゃなきゃ酷い。 さっきまでバスタブの中で私と戯れていたのに。私のことをぜんぶ知り尽くした指と舌で、私のことをあんなに可愛がってくれたのに。 「物欲しそうな顔して、そんなに僕のが欲しいの? だったら言ったとおりにして、僕を楽しませてよ」 私の体の奥から快楽を無理やり引きずりだした後、セイジュは私にこれ以上を求めるならバスタブに潜るように言った。 ――私の欲望の深さを見たいからって。 自分の欲望のためにはどんなことだってする浅ましい私が見たいからだって。 私は言うとおりにした。だってセイジュがそういうふうに私を作り変えたから。 どんなことをしてでもセイジュを手にいれようとする体にされてしまったから。 「つまんないの。僕はもう上がるね」 私はセイジュを押しとどめて、息を思いっきり吸って水に潜った。 苦しいけど、このまま放置されるほうがずっと辛い。 いきなり、セイジュの手が私のそこに伸びたのがわかった。軽く弄られただけで電流が走ったように体が震える。 けれど顔を上げちゃ駄目。一番欲しいものはこれじゃないから。 喘ぎ声の代わりに空気が口から漏れた瞬間、セイジュが私の頭を水から引き上げた。 「はい、良い子の君にはご褒美」 空気を求める私の口を、セイジュがふさぐ。 苦しい。 嬉しい。 我慢して我慢して、もう駄目だと思った瞬間、セイジュは私を助けてくれる。 それはいつものこと。 どうして私はもっと抵抗しないんだろう? セイジュに逆らうのが怖いからかな? けれど私はちゃんと答えを知っていた。 セイジュは私を殺さない。 お気に入りの人形である私を壊さない。 それどころか、甘い棘のような快楽を私にもたらしてくれる。 ……結局、私は『ご褒美』が欲しくてたまらないんだ。 「そんなに急かさなくても、今あげるから。本当に君は我慢がきかない子だね……そんなところも、可愛いんだけど」 その言葉で私は自分がセイジュのそこに腰をすりつけているのに気づいた。恥ずかしくて、慌てて否定する。 けれどセイジュは意に介さず、指を抜き、セイジュ自身を入れてきた。私は小さく悲鳴を上げた。 「ふふ。すごいね。僕のを呑みこんでいくよ」 セイジュのものでいっぱいにされて、私は深くため息をつく。そう、欲しかったのはこれ。でも、これだけじゃ足りない。 「君ばっかりそんなに動いたら、僕のすることがなくなるよ」 はっとする。 私は無意識のうちにゆるゆると腰を動かしていた。 私はセイジュに甘えた声でねだる。自分のものとは思えないほど、甘い、媚びた声。 「そんなに僕ので貫かれたいんだ……こう?」 強く一突きされ、私の体は勢いでまた水に沈む。セイジュの手が背中に伸ばされ、私は救い出される。 「もう水には溺れなくていいよ。君の欲しかったものはもう君の中にある」 息が荒くなるのはさっきまでとは違った理由から。 体が軽く感じるのは水の浮力のせいだけじゃない。 優しい微笑みからは想像もつかないほど荒く突かれて気が遠くなる。 セイジュは私の乱れようを愛しげに眺め、また深く口付けてきた。 「そう、そうやって今度は僕に溺れるといい。息の代わりに僕を欲しがればいい」 私は返事の代わりにセイジュを抱きしめた。そして与えられるままに快楽を吸い込んだ。 せっかく水から上がることができたのに、今度は快楽のあまり息ができなくなる。 ――そして、私はそのままセイジュに溺れ始めた。 END |