「綺麗な……ものだな」
天から降る白い雪を目で追い、地面に消えてなくなる瞬間、ふっと目を伏せる。
窓辺に腰掛け、そんなことを繰り返した後、シファがふに呟いた。
「そうね、私も雪って好きよ」
ココアの入ったカップを二つ持ち、隣に座る。
そこから見える景色は儚くて、脆くて、窓を開ければ一瞬で消えてしまうんじゃないかってくらいに幻想的。
「私は好きではなかった」
「……雪を?」
「手に触れただけで……そんな、人がもつ僅かな体温だけでも消えてしまう物なんて、存在する理由すらないと思っていた」
シファはカップの縁を親指でなぞり、少し淋しそうにふっと口の端を上げた。
「私は、天界に住まう者よりも遙に短い時間しか生きられぬ人間など、取るに足らない存在だと思っていた。
そう、この雪のように、この世界に在ることすらくだらないのだと」
それから私の頭を撫で、そっと自分の肩まで引き寄せると、おでこに軽くキスをくれた。
「だけど、おまえと暮らし始めてわかったことがある」
今度は、頬へのキス。
「限りある命だからこそ、皆懸命に生きているのだな。
おまえも、そしておまえの仲間も」
次は、鼻の頭に。
「その懸命に生きる姿を、美しいと思った。尊いと思った。
……そう考えたら、この雪の儚さも、愛しく思えてきた」
最後に、重なった唇。
私達はお互いの体温をたっぷりと確かめ合った後、ゆっくりと唇を離した。
「ねえシファ、気がついてる?」
「……何をだ?」
「あなただってもう、その儚くて愛しい存在なのよ?」
「……そう、だったな」
少し照れたように笑い、シファは私の頭に顎を乗せて背中を優しく抱いてくれた。
儚くて脆い存在の私たちだけど、お互いを愛しいって気持ちを忘れなければ、
きっと幸せになれるよね。
祈るような想いで、私もシファに抱きつき返した。
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