冬を肌で感じられる季節になった。

日は穏やかで暖かいのに、足の間をすり抜ける風はひんやりと冷たい。

銀杏の木も風に揺られる度にはらはらと、黄金色の葉を地面に散らしていく。

こんな日は大好きな人とのんびり歩くのが嬉しいね。

「手を繋がないかい?」

並木道の真中で、智哉君はそう言って手を差し出した。

手なんていつでも繋いでるのに、改まってどうしたのかな?

「うん、繋ごうよ」

指と指を絡ませて握り合えばそこから体まで温かくなってくる。

子供みたいに手をぶらぶらと大きく振りながら歩いていたら、昔のことを思い出しちゃった。

「ねえ智哉君、私達が初めて手を繋いだのもこの道だったよね。覚えてる?」

「ふふ、忘れるわけないだろう? 君と手を繋ぎたくなったのだって、それを思い出したからなんだからね」

小学校の入学式の帰り道、背中のランドセルが重くてバランスが取れず転んでしまった私に、智哉君はやっぱりさっきと同じように手を差し出してくれたんだっけ。

『手を繋がない?』

あの時の智哉君の手の感触、まだ私の中に残ってる。

「……ふふっ」

「どうしたんだい?」

「不思議だなあって思ったの。あれからもう何年も経ってるのに、私達はやっぱりこうやって手を繋いでいるんだもの。私達、変わらないね」

「そうかな? 随分と変わったと思うけど」

「え?」

きょとんと首を傾げた時にはもう、唇に温かさを感じていた。

それをゆっくり離した後、智哉君は眼鏡の奥の優しい瞳で私に笑いかけた。

「昔はこんなことできなかったからね」

「あは、ほんとだね」

変わった部分はいっぱいあるけど、変わらなくて嬉しい部分もいっぱいあるって智哉君は気がついてるかな?

だってね、さっき笑った時の智哉君の瞳、あの頃のままだったんだもの――。








〜 F I N 〜



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