カランコロン
赤い鼻緒の下駄が鳴る。
アップにした洗い立ての髪から、微かにシャンプーの香りが零れる。
「はぐれないようにしないとですね」
聖君が、なれない履物で歩みの遅い私に合わせるように、手を繋いでゆっくり歩いてくれている。
「先輩の浴衣、可愛いですね」
「これね、おばあちゃんのおさがりなの」
薄紅色に、ひらりと舞う可憐な蝶を染め抜いた浴衣は、私が年頃になったら着るようにと、子供のときにおばあちゃんがくれたものだった。
「もしかして、この髪飾りって、浴衣の柄に合わせたんですか?」
「ふふ、わかった? 大正解」
私の髪にも舞っている小さな髪飾りは、お店を何軒も回ってやって見つけた、浴衣の柄とそっくりな色合いをした蝶。
「とってもよく似合ってますよ。……なんだか嬉しくて、いまこの周りにいる人全員に、先輩のことを自慢したくなっちゃいます」
あは、ここで『自慢していいよ』って言ったら、
聖君のことだから、本当にしちゃいそうね。
花火大会の会場が近付くにつれ、どんどん人が増えてくる。
ドーン……
「あっ……」
一つ目の花火が打ち上げられた時、聖君が小さな叫びをあげた。それは花火に向ってじゃなく、私の髪に向ってだった。
「先輩、髪留めが……」
「え?」
言われて触ってみると、どこにも髪留めがない。この人ごみの中、はずみで落ちてしまったのかも……。
「……やっと探して買ったのに……」
がっくりと肩を落としてため息をついた時、二つ目の花火が上がった。
ドーン……
聖君は空に手を伸ばし、花火を掴む真似をすると、
その手でそのまま私の髪に触れた。
「ほら、世界一綺麗で大きな花を、先輩の髪に飾りましょう。
だから元気出して、ねっ?」
「……ふっ、あははは」
「せ、先輩、笑わないで下さい! 恥ずかしくなっちゃうじゃないですか!」
聖君、笑っちゃってごめんね。だって、聖君からそんな台詞出てくるなんて思わなかったんだもの。
でもありがとう。世界一綺麗で大きな花、ちゃんと受け取ったからね。
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