ベランダから、2人で夜空を見上げていると、隣でフロリアが囁いた。
「ねえ、もしもの話をしてもいいかい?」
「もしもの話?」
「そう、もしもなんだけど、僕と全く同じ外見で、全く同じ性格の人間が現れたとして、君はどっちが本物の僕か見分ける自信がある?」
なんだかおかしな質問。
「それは全く同じなの? 声も、話すことも、それから仕草とかも?」
「全く同じだね。さあ、どうだい? 僕を見分ける自信がある?」
「あるわよ」
きっぱりと答えた私に、フロリアはちょっとだけ面食らったみたい。
「そうはっきり言われると思わなかったな。僕としては、困って戸惑う可愛い君を見たかったのに」
「だって、とても簡単な質問なんだもの」
「ほう?」
「だってね、ほら」
そう言って私は満天の星空を指差す。
「普通の人が見たら全く見分けがつかない星だけど、わかる人が見たら、すぐにあれがなんて名前の星なのかわかるじゃない? 私には、どんなにフロリアと同じ外見や性格を持った人がいたって、その中から本物を見つける自信があるの」
「ふふ……、困ってる君も可愛いかったんだろうけど……、こうやってじっと僕の目を見つめてくる君は、もっと可愛いね」
後ろからフロリアに抱きしめられ、私の体はすっぽりと包まれた。
「でも、現実には、フロリアみたいな人なんて、2人もいないと思うんだけどな」
「僕みたいにかっこよくて、優しい男かい?」
「あなたみたいにかっこよくて優しくて、私をいっぱい愛してくれて、それから……」
「それから?」
「とびきりエッチな男の人」
「あはは、これはまいったね。でも、本当のことだから仕方ないかな」
フロリアは私の体から腕を離すと、今度は私に向って右手を差し出した。
「さて、君の期待には応えないとね。ベッドまでエスコートするよ」
そんなつもりじゃなかったんだけど。
少しだけ苦笑しながら、私はその手にそっと自分の手を乗せた。
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