ファウストがわたしを抱き締めた。

【ファウスト】
「では、遠慮なく」

ファウストの表情が変わる。

普段の一人の青年から、闇に生きる者へと
変貌した。

赤い目の光は輝きを増し、野性味を帯びている。

【ユーリ】
「…………ん」

ファウストの牙が深々と首筋に刺さる。

あの香水の香り。濃いムスクが立ち昇ってくる。

痛みはほとんどない。でも固く鋭いものが皮膚を
食い破った感覚はあった。

【ファウスト】
「…ン。痛かったか? がっついちまった
 ようだな」

ファウストの大きな手がわたしの頬をソフトに
撫でていく。

指先がふれたり、離れたりしたのがわからない
ほど、微妙な加減だった。

触れた部分から、熱を発するみたいに体が
熱くなっていく。

【ユーリ】
「……痛くはないわ」

【ファウスト】
「声がうわずっているぞ…。ン…フゥ…。
 いい味だ。お嬢ちゃんみたいに甘酸っぱい」