開いたままのドアから、部屋を覗く。

ピアノの前に誰かが座っていた。

…ファウストだった。

わたしが覗き込んでいるのに、
まったく気づいていない。

それほど、夢中になっているみたい。

せつないメロディを響かせている。
聞いたことのあるクラシックの曲だ。

とっても上手。繊細なタッチで、ピアノを撫でる
ように弾いている。

メロディと同じように澄み切った顔。
わたしのよく知るファウストと全然違う。

酔っ払っていたり、脱力しながら煙草をくわえて
いる顔しか知らなかった。

そのファウストが穏やかな笑みを浮かべ、
楽しそうにピアノを弾いている。

何てきれいな曲。

胸が締め付けられそうなほどのメロディに
わたしは聴き惚れていた。