【兵士】
「お休み前に失礼致します。
城のコックが連れてきたのですが……」

【アーシェ】
「……!! カイル!!」

私は兵士の腕からそっと、ぐったりして動かない
カイルの体を受け取った。

誰かがやってくれたのか、お腹に巻いた包帯には、
赤い血が滲み出ている。

【兵士】
「城のキッチンの隅で倒れていたようです。
医者を呼ぶと言ったのに、誰にも言わないで
欲しいと頑なに拒否したそうです」

【猫カイル】
「私に……かまわ……ないで……。
姫様……降ろして……下さい……」

怪我のせいで熱があるのか、熱い息を荒く吐き出し、
消え入りそうな声で呟いている。

だけど意識ははっきりあるみたいで、
私の腕から逃れようと力ない動きで
前足をばたばたさせている。

【兵士】
「姫君の元に連れて行った方がいいと
思いまして……」

【アーシェ】
「……ありがとう、後は私がなんとかします」

【兵士】
「はっ。失礼します」

ドアが閉まる音と同時にため息を吐き出し、
青ざめたカイルの顔を見る。

こんなになるまで戻ってきてくれないなんて……。

私はカイルをベッドに寝かせると、
バスルームからタオルと水を入れた桶を持ってきた。

ベッドの横に椅子を引き寄せて座ると、
タオルをかたく絞り、カイルのおでこに乗せる。