さわわ……

テラスに飾ったすすきを揺らす冷たい風が、秋の訪れを形にして見せてくれる。

インクを零したような濃紺の空にぽっかりと浮かぶまん丸のお月様。

「ねえユーゴ、月が綺麗ね」

「ん……」

返ってきたのは生返事。どうやら見習いパティシエさんは、お月様より自分の作ったお団子を取り分けるのに夢中みたい。

「はい、お団子……食べない?」

「うん、もうちょっと後でいいよ。今はのんびり月を眺めようよ」

「……食べないの……?」

しょんぼり、肩を落とす。
なんでもこのお団子、自信作なんだって。だから早く食べて感想を聞かせてもらいたいみたい。

「あは、じゃあ、頂こうかな」

鉄瓶からほうじ茶を注いで、ユーゴが取り分けてくれたお団子の横に餡子と蜂蜜を垂らした。

「あ、美味しい! すっごく柔らかい!」

ぷにっぷにっ

私の言葉が終わらぬうちに、ユーゴの指が私の頬をつついた。

「あなたの頬を思い出しながら……作った、から……」

ぷにっぷにっ

そういえば、ユーゴは前にもこうやって私のほっぺをつついて困らせたことがあったけど、今はとっても気持ちいい……な。

「……もう、食べないと、私が全部食べちゃうからね」

照れ隠しに、そんな意地悪を言ってみた。てっきり、慌ててお団子に飛びつくと思ったのに、ユーゴは全く動じず私の唇に自分の唇を近づけてきた。

触れる直前、ユーゴはくすくす笑いながら囁いた。

「いい、よ……。もっと食べたいもの、ここに……ある、から……」

「……お月様が見てるよ……、恥ずかしい」

「見せてあげれば、いい、よ……」

口付けはすぐに深いものになり、私達はその場でゆっくりと重なり合った。

恥ずかしくなったのはお月様の方だったみたいで、雲に顔を隠してしまった。








〜 F I N 〜



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